ライラックをあなたに…


静まり返る部屋に、彼の吐息と私の吐息。

何処かに吸い込まれるように消えてゆく。


彼が私に気遣ってくれている事は良く分かる。

見ず知らずの女にそこまで気を遣ってくれる彼に、申し訳なく思いながら…。

けれども、既に開けてしまったパンドラの箱は、もう閉じる事は赦されないようだ。



私は覚悟を決め、彼の言葉に耳を澄ませた。


「吐き疲れてからはぐったりしていて、俺はベッドへ静かに寝かせた」

「……ん」

「暫くすると、寝息を立て始めたから、俺は服を洗うついでにシャワーを浴びに行った」

「…ん」

「20分くらいかな?部屋に戻ると……」


急に言葉を噤んだ彼を不思議に思い目を開けると、苦しげな表情で私を見つめていた。


「……その……後は?」



彼をさらに苦しめる事だとしても、訊かずにはいられない。

既に開けられたパンドラの箱。

私を奈落の底へ突き落す鍵だとしても。


私は息を呑んで、彼の言葉を待つ。

彼もまた覚悟を決めたようで、ゴクリと生唾を飲み込んだ。




そして――――――


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