ライラックをあなたに…
「ここへ来てからはずっと吐きっぱなしで…」
「……うん」
「だから、仕方なく……服を着替えさせた。汚れたまま寝かせられなくて…」
「フッ……そうよね。本当に有難う」
彼の言う通り、きっと沢山吐いたのだろう。
今でさえ、胃がムカムカしているのだから。
彼が善人で服を着替えさせてくれた事に感謝しなければならない。
汚れた衣服など、脱がせたままにする事も出来たし、ましてや襲う事だって出来た筈なのだから。
少しずつ甦る……闇の記憶。
胸の奥が熱く燃えながら訴えている。
触れてはいけない『記憶』だと。
けれど、もう手遅れのようだわ。
記憶は痛みと共に、身体中に張り巡らされているようで。
「まだ、続ける?」
覗き込むように声を掛けて来る彼。
「……えぇ、お願い」
私は深呼吸をし、ゆっくりと瞼を閉じた。
すると、彼が大きなため息を吐いたのが分かる。
目を閉じていても、彼の息遣いが肌に伝わって来るから。