ライラックをあなたに…


突然、おでこに軽い衝撃を受けた。


項垂れていた私のおでこが、一颯くんの鎖骨に当たったらしい。

いつの間にか彼の長い腕の中に閉じ込められ、爽やかな香りが鼻を掠める。



「会社に行くのが憂鬱としか考えてなかったよ」

「一颯くんが謝る事ないよ?ホントにこれは私の問題だから」



自分に言い聞かせるように心の中で何度も唱える。


有給休暇を使用しても足りない約2週間。

頑張って出勤しなければならない。


解ってはいるが、やはり気が重い。

休み明けという事もあり、余計にそう感じるのかもしれないが、それでも自分自身を鼓舞せねば、到底出勤出来るような気分じゃない。



一颯くんはゆっくりと腕を解き、私の顔を覗き込んで来た。



「1人で行ける?俺が会社まで一緒に行こうか?」

「だ、大丈夫だよ!一颯くんは大学に行かないと!!」

「俺の心配は要らないから。大学へは10時頃までに行けば大丈夫だし」

「ホントに大丈夫だから……」

「本当に?」

「う、うん。………大丈夫」



じっと見つめられると答え辛い。

心の奥まで見透かしてそうな彼の瞳。

無意識にトクントクンと心臓が早鐘を打つ。



< 150 / 332 >

この作品をシェア

pagetop