ライラックをあなたに…
コピーした設計図を手にして自分のデスクに戻ると、既に外出準備を始めていた神田君が視界に入る。
「神田君、遅くなってごめんね。はい、設計図」
「あっ、すみません。先輩にコピーして貰って」
「いいよ、別に。すんなり決まるといいね」
「そうですね」
これから神田君が向かおうとしている呉服問屋の『縞や』様は、デザイン課では有名クレーマーな取引先。
今風の斬新なデザインでなく、昔ながらの間取りをご希望なのに、遣いがてらが悪いだの、若者が寄り付かないだの……それはそれは矛盾している事ばかりクレームをつけて来る。
今回はリノベ課の協力もあり、まずまずの出来ではないだろうか。
そんな間取りに設計された図面を神田君に手渡し、小さくガッツポーズを決める。
「大丈夫!!頑張って、神田君!!」
「はい、行って来ます!!」
爽やかな笑顔を決め、神田君はオフィスを後にした。
千秋先輩は午後から商談が入っていて、会議室に缶詰状態。
私は自分のデスクに向い、引継ぎ用に顧客ファイルを纏め始めた。