ライラックをあなたに…


視線の先には『母親』の二文字。


今朝のあの人の言葉が脳裏を過る。

もしかしたら、彼が実家を訪れて、両親に全て打ち明けたのかもしれない。

ううん、きっとそうに違いない。


だとすると、これは私を心配して掛けて来た事になる。


どうしよう。

やっぱり出なきゃまずいよね?


1人娘の私にとって、両親の期待は計り知れない。

しかも、相手があの天才設計士という事もあり、結婚が決まった時は手放しで喜んでくれた。


それが、挙式の1か月前に破談だなんて……。


両親に掛ける言葉が見つからない。


震え続ける携帯。

胸がぎゅーっと締め付けられる。


私の性格が能天気だったら良かったのに。

そしたら、何の気なしに電話に出て『破談になっちゃった』で済ませられるのに……。


未だ震えている携帯を握りしめ、胸元をギュッと掴んでいると、フッと震えが止まった。


ディスプレイを再確認すると、不在着信の表示が出ている。


「お母さん、ごめんね」


自然と零れ出す、心の声。

ハーブの香りが漂う室内に消えてゆく。


ホッと安堵した、次の瞬間!!

再び、手の中にある携帯が震え出した。


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