ライラックをあなたに…
信号待ちでも一颯くんは黙ったまま。
チラリと彼の顔を見上げると、真っ直ぐ前を見つめ、何やら険しい表情。
もしかして、さっきの事が原因で怒らせてしまったのかしら?
あっ、でも、さっきは安堵してる感じだったけど……。
彼が何を考えているのかサッパリ分からない。
信号が青になれば、真っ直ぐ見据えたまま歩き出す。
勿論、私の手を握ったまま。
結局掛ける言葉が見つからず、一颯くんの自宅へと着いてしまった。
玄関を開けた彼は私を中に促すように片手でドアを押さえ、漸く繋がれた手が離された。
けれど、やっぱり無言のまま。
私はそんな空気を察して、無言でリビングへと向かった。
すると、
「寿々さん」
「ん?」
玄関から声を掛ける一颯くん。
私も応えるように振り返ると。
「今日は出来るだけ早めに帰って来るから、起きてて貰える?」
「うん、分かった」
「じゃあ、俺……戻るね?」
「あっ、あのさ、一颯くん」
「ん?」
「さっきは、本当にありがとうね」
「…………うん。じゃあ、行って来る」
「行ってらっしゃい」
彼ははにかんだような笑みを浮かべ、『源ちゃん』へと戻って行った。