ライラックをあなたに…
「お姉さんが癒してあげるよ……おいで!」
「えっ?」
「ほら~いいから、おいで~」
「………」
寿々さんは優しい笑顔で両手を広げている。
それは、俺を抱き締め、受け止めようとしている訳で……。
寿々さんの心の傷を癒す筈の俺が、彼女に癒して貰っていいのだろうか?
けれど、俺の邪な考えなど知らない彼女は純粋にも俺を励まそうとしている。
それは、俺の事を信用しているという証。
心も許して無い男を抱き締めようとなどしない筈だから……。
そんな些細な事でも嬉しかった。
別に抱きしめて貰わないとならないほど弱っている訳じゃ無い。
だけど、彼女の優しさを無駄にしたくなくて………。
「……いいの?」
「うん、いいよ!!おいで~」
「…………じゃあ、お言葉に甘えて……」
俺は彼女の方へ少しいざると、彼女も俺の方へ少しいざった。
そして、彼女の胸に顔を埋めるように身体を預けると……。
「たまには、甘えてもいいんだからね?」
「へ?」
「一颯くんは、頑張り屋さんなんだよ。たまには肩の力を抜くくらいが丁度いいよ」
「…………ん」
自分と同じボディーソープの香りと柔らかな感触が、痛んだ心の傷を癒して行った。