ライラックをあなたに…
「一颯くん、行って来るね?」
「ん、行ってらっしゃい」
リビングの入口から笑顔で挨拶する寿々さん。
今日は受講日らしく、大きなトートバッグを肩から掛けて出掛けて行った。
あと数回でスクーリングが終了する。
課題も実技演習も順調に全てクリアしてるらしい。
元々真面目な彼女は、暇さえあれば俺の愛用書にも手を付けるほどの努力家だ。
2カ月のスクーリングのお陰で、今では俺よりオーガニックレシピがあるくらいだ。
毎日楽しそうに過ごす彼女を見ていて、何度も脳裏を過るアイツの言葉。
単純な俺の脳は、まんまとアイツの呪縛に捕らわれていた。
「はぁ……参ったな」
思わず口から弱音が漏れ出すほど、俺の精神状態は不安定なものになっていた。
6月も半ばを過ぎようとしているこの時期。
くちなしの花が甘い香りを放ちながら、今を盛りと咲き誇り、淡青の色鮮やかな紫陽花の花が、梅雨の鬱陶しさを幾分か紛らわしてくれる。
そんな四季折々の情緒を楽しめる余裕がある筈なのに、今の俺は、心がぎすぎすして余裕が無い。
そんな自分自身をどうにか打破したくて、尊敬する教授のもとを訪れた。