ライラックをあなたに…
「お忙しいのに……すみません」
「いいえ、構いませんよ。今日はどうしました?」
白衣を纏った小池教授が、慣れた手つきでハーブティーを淹れてくれる。
俺が淹れるハーブティーは教授直伝のものだ。
爽やかな香りと柔らかい湯気を纏ったカップが目の前に差し出された。
「ありがとうございます」
「どう致しまして」
小池教授は、ロマンスグレーの似合う実直温厚な性格で、植物・樹木の世界で第一線で活躍している権威ある学者だ。
俺がこの道を目指すきっかけとなった人物でもある。
学生に優しく研究熱心で、論文に行き詰まり何度も折れそうになった俺を親身に励まして下さった人。
師匠でもあるが、人間として、人生の先輩として尊敬している。
そんな教授に、無性に逢いたくなったのだ。
ここ数週間、教授は海外の学会に出席したりして、大学には不在だった。
彼の助手をしている俺は、そのスケジュールを把握している。
だからこうして、帰国した頃合いを図り、逢いに来たという訳だ。
教授の淹れてくれたハーブティーを一口含み、安堵の溜息が零れた。