ライラックをあなたに…


物凄く間近で心配そうに覗き込む彼。

一体、誰だろう?


少し茶色がかった髪に黒曜石のような漆黒の瞳。

スッと通った綺麗な鼻筋に、薄い唇は艶気を帯びている。


見るからに美男子で女に不自由してなさそう。

私は名前も知らない彼の顔をマジマジと見つめた。



「気分はどう?気持ち悪くない?」


少し低めの声の主は、勿論目の前の彼で、私の具合を尋ねているだけなのに何故か、心地いい優しい声音に思わず、うっとりと聞き入ってしまった。


二日酔いのせいなのか、寝起きだからなのか。

上手い言葉が出て来ない。



すると、彼はフッと表情を和らげて、私の髪をそっと撫でた。


「もう、大丈夫みたいだな」

「へ?」


彼が発した言葉の意味が分からない。

『大丈夫』って、一体何のことだろう?


ますます分からない事だらけで、頭の中が混乱する。



「何か、飲む物を持って来るよ」


彼は私をベッドに残して、部屋を出て行った。



今の………何?


< 3 / 332 >

この作品をシェア

pagetop