ライラックをあなたに…


「わぁ~!!きれ~い!!」


普段は近寄る事の無い中庭に連れて来て貰った。


教授の研究室は東棟の一番端。

日当たりのよい場所に位置している。


そして、今いる場所は西棟のある中庭。

大学院にこんな場所がある事さえ知らなかった。


しかも、大きなモミの木にイルミネーションが施され、既に日が落ちている今、眩いほどに光り輝いている。


大きなクリスマスツリーを見上げ感嘆の声が漏れると、教授の携帯電話が鳴り響いた。


「国末さん、すみません。ちょっと電話して来ますね」

「はい、ごゆっくりどうぞ」


教授が席を外している間、私はツリーの周りを一周し、そして、今にも雪が降り出しそうな空を見上げた。


この空は彼のいる南米の空と繋がっている。

時差は14時間くらいだから、今は真夜中。

だとすると、きっと同じような暗い色の空だよね?



既に冬休みに入っている大学院。

クリスマスイブという事もあり、学生の姿は無い。


閑散としている中庭には、私の白い息があるだけ。

私の吐息が吸い込まれていく空を眺め、ゆっくりと瞼を閉じる。


そして、クリスマスツリーと彼のいる南米と繋がっている空に向い、そっと願い事を口ずさむ。


「………逢いたい」


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