ライラックをあなたに…


声に出してしまうと、心に押し込んだ想いが一気に溢れ出す。


「逢いたい、逢いたい………一颯くんに逢いたいよ」



瞼の裏に彼の笑顔が浮かび上がる。


それから、ちょっと意地悪な笑顔も。


後は、軽々ピッチャーを持ちながら、お客さんに会釈する彼。


目を細めながら焼き鳥を焼く姿。


愛おしそうに見つめながら水を撒く彼。


机に向い、真剣に本を読む姿。


器用にフライパンを振り、料理する彼。


お風呂上がりにタオルドライしながら、リビングに胡坐を掻く彼。


吐き出し窓からひょっこり顔を出して、ベランダにいる私に声を掛ける彼。


優しい笑みを浮かべ、コトンとティーカップを置く姿。


『見合う男になって戻って来るから…』と熱い瞳で見つめてくれた彼。



私の心に焼きついた彼の面影はどれも、優しくて温かい瞳の彼だ。

そんな彼の名前を心の中で何度も呟くと、コツコツと靴音が耳に届いた。


「教授、ありがとうございました」


涙目を笑顔で誤魔化し振り向くと―――――。


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