ライラックをあなたに…


「ただいま」

「…………へ?」



コツコツコツコツと軽快な足取りで近づいてくる人が1人。

薄暗い通路から私のもとへ歩いてくる。


しかも、その人の容姿が『逢いたい』と想っている人物に瓜二つ。

それに、優しい声音の『ただいま』の声までそっくりなんだけど……。



魂が吸い寄せられるように見惚れてしまう。

瞬きも忘れ、呼吸の仕方も分からなくなるほど、心臓が物凄い速さで反応している。



1歩、また1歩と近づくその人はツリーのイルミネーションに照らされ、端正な顔立ちが徐々にハッキリと見えて来た。



えっ……。

………嘘でしょ?!


目の前まで来たその人は、優しい笑みを浮かべたままじっと私を見つめて……。


「ただいま、寿々さん」

「………ッ!!」


長い腕がそっと私を抱き寄せた。


自宅と同じ爽やかな香りが鼻腔を擽る。

心地いい声音に身体の芯からジンと甘く痺れる。

抱き締める彼の温もりと僅かに届く彼の鼓動。


どれも私が想い焦がれた人のものだ。


嬉し過ぎて一瞬で涙腺が崩壊し、彼のコートにしがみ付いた。


「おかえり………、一颯くん」


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