ライラックをあなたに…


空になったマグカップを握りしめたまま、ゆっくりと顔を持ち上げると、彼はまた先程と同じ表情をしている。


何故、そんなにも安心したような顔をするのだろうか?


不思議に思いつつ、彼の顔をじっと見つめていると、それまで黙っていた彼が口を開いた。



「俺が誰か?って顔してるけど…」

「………」


見覚えの顔だが、もしかしたら私が忘れているだけなのかもしれないと、必死に思い返してみる。

けれど、思い当たる人物は1人もいない。



「……ごめんなさい」


私は小さな声で呟いた。


「仕方ないよ、あれだけ飲んでたら。しかも、正気じゃ無かったしね」



……正気じゃない?


私は酔って大暴れしたのだろうか?

今までお酒を口にしても、酔い潰れた事は1度も無い。


えっ?じゃあ、もしかして、そのまま彼とベッドへなだれ込んだの?

私は思わず、シャツの胸元をギュッと掴んだ。



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