ライラックをあなたに…
一颯くんに言われて初めて気付く。
そう言えば、何となくお腹が空いて来たかも。
けれど、厚かましく『〇〇が食べたい』等と、学生のように軽々しく口を利けない。
一颯くんくらいの歳だったらもう少し打ち解けたのかもしれないが、27歳という中途半端な年齢が無駄に気を遣ってしまうのかもしれない。
「遠慮しないで好きなモノを言ってごらん?」
大将の優しさが心に沁みる。
限りなく初対面に近い私に大事な店の手伝いをさせ、その上、食事まで提供してくれるという。
まぁ少なからず、私がお店を手伝ったというのもあるが、それにしても優し過ぎる。
人なんて、態度や仕草、視線や言動である程度の雰囲気が分かるものだ。
一颯くんにしても、大将にしても、人柄が優れている。
得体の知れない私に普通、ここまで親切にするだろうか?
烏龍茶の入ったグラスを握りしめ、2人の会話を聞いていると
「はい、コレなら食べられるよね?」
目の前に差し出されたのは鯛茶漬け。
二日酔いを気遣っての彼の優しさだと思う。
「ありがとう。大将、ありがとうございます。では、遠慮なく戴きますね」
「おぅ、いいっていいって」