桜縁




月の言葉に驚く沖田。


だが、着物を乾かすには、この方法しかない。


「……そんなことを言って、大丈夫なの?」


「沖田さんに濡れた着物を、着せるわけには行きません。社に行って乾かして下さい。私なら大丈夫ですから。」


「……君は変な所で義理堅いんだね。僕のことなら気にしなくてもいいのに……。」

「沖田さんは私の恩人ですから、そういうわけにはいきません。」


「分かった、君がそこまで言うなら、お願いするよ。」


「はい。」


沖田と月は社へと戻った。






社へ戻ると着物を社の柱に吊し、風が通るようにする。


まだ、近くに兵士達がいるかもしれないから、目立つ火はおこせないのだ。


だが、今夜は風通しがいいので、明日の朝までには乾きそうだ。


沖田は下に着ていた薄い着物を羽織って、月と一緒に境内の階段に座っていた。


気がつくと、月は沖田の横でウトウトとしていた。


色々ありすぎて疲れたのだろう。


沖田は月を抱え上げ、社の中に敷かれていた座古の上に寝かせた。


そして、境内の雨戸をしめ、自分は階段に座って休むのであった。





朝になり月は目を覚ます。目の前には社の天井が広がっていた。


自分が社の中で寝ていたことに気づくと、慌てて起き上がり、表へと飛び出す。


「沖田さん……!」


だが、沖田の姿は何処にもなく、干していたはずの着物もなくなっていた。


どうやら沖田は、自分の居場所へ戻って行ったようだ。


「はぁ………。」


ため息をつく月。すると、背後から足音が聞こえてくる。


「あれ?もう起きたの?」


「沖田さん……!」


振り返ると、身なりを整えた沖田が立っていた。


「傷は大丈夫なの?」


「はい、少し痛みますけど大丈夫です。それよりも、沖田さん何処へ行ってたんですか?」


「少し町の様子を見にね。」


昨日の今日だから、さすがに町の様子が気になる。長州にも薩摩の間者が潜んでいるから、自分達のことを捜しているかもしれない。


それに、長州からしても、月は姫を殺そうとしたお尋ね者だ。


兵士達が捜さないわけがない。


「それで、どうでしたか?」


「うん、特に変わった動きはないけど、でも、見つかるのも時間の問題だと思う。なにしろ僕達は兵士達を斬ってるからね。早くここから、立ち退いたほうがいいよ。」

「そうですか……。」
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