桜縁




でもここは、兄である史郎との約束の場所だ。


ここを離れるわけには行かない。


「わかりました。なら、沖田さんはもう行って下さい。私はここに残りますから。」

「君、自分が何を言ってるのか、ちゃんと分かってるの?奴らの狙いは君なんだよ?」


「分かってます。でも、ここが兄との約束の場所ですから……。」


その言葉を聞き、なんとなく月の事情を察する沖田。


そういう事なら、沖田も月を残して行くわけにはいかない。


「分かった。なら、僕も残るよ。」


「え……?」


「言ったよね?僕も人を捜しているんだ。それに、女の子一人残して行くわけにはいかないしね。」


「沖田さん……。」


「でも、ここが危ないって言うのは本当だよ?だから、それなりの覚悟はしてもらわないと困るよ?」


「分かっています。」


ここに残ると決めた時点で、そのようなことは承知済みだ。


沖田と月はそれぞれのお尋ね者を捜しながら、社に留まった。







しかし、事態は一変してしまう。


この日、兄を捜しながから、沖田と共に町へ出ていた月は、とある宿屋で沖田の帰りを待っていた。


なんでも沖田も月とは関係なしに、長州から隠れないといけない身であったのだ。


それぞれの敵に囲まれながらの捜索は難しいので、こうして身を隠しながら、捜索をしているのだ。


廊下の方から足音が聞こえてくる。


どうやら沖田が戻って来たようだ。


襖が開かれ、沖田が中へ入って来るが、明らかに様子がおかしい。


「沖田さん……?どうしたのですか?酷く顔色が悪いですよ?何かあったんですか?」


沖田の顔を見ると、真っ青で暗い顔をしていた。まるで、幽霊のような顔をしている。そしてそのままグラリと崩れ落ちる。


月は慌ててその身体を抱き留める。


「沖田さん?沖田さん……!!」


呼びかけるが、沖田は意識を失っていた。


すると、沖田の肩に何かが刺さっているのを見つける。


月はそれを抜き取ると……、


「……毒!?」


血に紛れて微かに、針先が変色していた。


沖田は毒にやられていたのだ。


「沖田さん!沖田さん……!!」


必死に何度も何度呼びかける。しかし、沖田が意識を取り戻すことはない。


どうすればいいのか、困惑する月。


このままでは、沖田の命が危うい。



< 20 / 201 >

この作品をシェア

pagetop