桜縁
でもここは、兄である史郎との約束の場所だ。
ここを離れるわけには行かない。
「わかりました。なら、沖田さんはもう行って下さい。私はここに残りますから。」
「君、自分が何を言ってるのか、ちゃんと分かってるの?奴らの狙いは君なんだよ?」
「分かってます。でも、ここが兄との約束の場所ですから……。」
その言葉を聞き、なんとなく月の事情を察する沖田。
そういう事なら、沖田も月を残して行くわけにはいかない。
「分かった。なら、僕も残るよ。」
「え……?」
「言ったよね?僕も人を捜しているんだ。それに、女の子一人残して行くわけにはいかないしね。」
「沖田さん……。」
「でも、ここが危ないって言うのは本当だよ?だから、それなりの覚悟はしてもらわないと困るよ?」
「分かっています。」
ここに残ると決めた時点で、そのようなことは承知済みだ。
沖田と月はそれぞれのお尋ね者を捜しながら、社に留まった。
しかし、事態は一変してしまう。
この日、兄を捜しながから、沖田と共に町へ出ていた月は、とある宿屋で沖田の帰りを待っていた。
なんでも沖田も月とは関係なしに、長州から隠れないといけない身であったのだ。
それぞれの敵に囲まれながらの捜索は難しいので、こうして身を隠しながら、捜索をしているのだ。
廊下の方から足音が聞こえてくる。
どうやら沖田が戻って来たようだ。
襖が開かれ、沖田が中へ入って来るが、明らかに様子がおかしい。
「沖田さん……?どうしたのですか?酷く顔色が悪いですよ?何かあったんですか?」
沖田の顔を見ると、真っ青で暗い顔をしていた。まるで、幽霊のような顔をしている。そしてそのままグラリと崩れ落ちる。
月は慌ててその身体を抱き留める。
「沖田さん?沖田さん……!!」
呼びかけるが、沖田は意識を失っていた。
すると、沖田の肩に何かが刺さっているのを見つける。
月はそれを抜き取ると……、
「……毒!?」
血に紛れて微かに、針先が変色していた。
沖田は毒にやられていたのだ。
「沖田さん!沖田さん……!!」
必死に何度も何度呼びかける。しかし、沖田が意識を取り戻すことはない。
どうすればいいのか、困惑する月。
このままでは、沖田の命が危うい。