桜縁



「なら、この中の誰かと試合をするわけですか?」


「そういうこと。」


ひょうひょうとして答える沖田だが、とても楽しそうだ。


「なら、腕が鳴りますね。」


「そういえば、月。お前は参加しないのか?」


「え……?」


「そうだな、お前もついでに参加してみたらどうだ?」


「今や月ちゃんも浪士組の一員だからな!」


「だが、女の行くべき場所ではない。やめておけ。」


「いいじゃんか!見るだけなんだし…!」」


「そうだぜ、月ちゃんがせっかく参加出来る機会だってんのに……!」


「だが、斎藤の言うことにも一理あるな。隊士でもない女が一人行くんだ。変に誤解されたらまずいかもな……。」


平助と永倉とは違い、冷静な判断をする原田。


女が行くだけでも、浪士組の評判が落ちかねないし、何より女の存在はいささか問題がある。斎藤もそのことを心配して言っているのだ。


「だが、まさか月ちゃんを、隊士として参加させるわけには行かねぇだろ!?女の子なのに、怪我でもさせたら洒落になんねぇし……。」


「だから、月には俺達が帰ってくるまで、留守番してもらうんだよ。なあに、今では立派な小姓さんだ。心配ないさ。」


ぽんぽんと軽く月の頭を撫でる原田。


だが、二人はまだ不満そうだ。


「でも、月ちゃんは強いと思うよ?」


「!」


一勢に沖田に注目が集まる。


「総司?」


「参加して下手に怪我をするのは、僕達の方だったりして……。」


「……!」


チラリと月を見る沖田。沖田に戦うところを見られていた。


あの時は必死になりすぎていて、危うく命を落としかけたが、なんとか兵士を倒し生き抜くことが出来たのだ。


「ならば、刀を手にすれば良いだけのことだ。」


「………!」


斎藤は近くにあった木刀を月に投げる。


「取れ。……俺がお前の剣術を見てやる。総司が言ったことが、本当なのだと証明してみろ。」


「おい、正気かよ斎藤…!月ちゃんにそれは無理だぜ!」


「そうだよ!月が可哀相だろ!?」


必死に月を庇おうとする平助と永倉。だが、斎藤はやめようとはしない。


月はそれに応じるかのように、投げられた木刀を拾い、切っ先を斎藤に向けた。


「月……!!」


「…………。」


皆が見守る中、場の空気が一瞬にして変わる。


互いに隙を見せないよう、立ちはだかってみせる。
< 34 / 201 >

この作品をシェア

pagetop