桜縁
「なら、この中の誰かと試合をするわけですか?」
「そういうこと。」
ひょうひょうとして答える沖田だが、とても楽しそうだ。
「なら、腕が鳴りますね。」
「そういえば、月。お前は参加しないのか?」
「え……?」
「そうだな、お前もついでに参加してみたらどうだ?」
「今や月ちゃんも浪士組の一員だからな!」
「だが、女の行くべき場所ではない。やめておけ。」
「いいじゃんか!見るだけなんだし…!」」
「そうだぜ、月ちゃんがせっかく参加出来る機会だってんのに……!」
「だが、斎藤の言うことにも一理あるな。隊士でもない女が一人行くんだ。変に誤解されたらまずいかもな……。」
平助と永倉とは違い、冷静な判断をする原田。
女が行くだけでも、浪士組の評判が落ちかねないし、何より女の存在はいささか問題がある。斎藤もそのことを心配して言っているのだ。
「だが、まさか月ちゃんを、隊士として参加させるわけには行かねぇだろ!?女の子なのに、怪我でもさせたら洒落になんねぇし……。」
「だから、月には俺達が帰ってくるまで、留守番してもらうんだよ。なあに、今では立派な小姓さんだ。心配ないさ。」
ぽんぽんと軽く月の頭を撫でる原田。
だが、二人はまだ不満そうだ。
「でも、月ちゃんは強いと思うよ?」
「!」
一勢に沖田に注目が集まる。
「総司?」
「参加して下手に怪我をするのは、僕達の方だったりして……。」
「……!」
チラリと月を見る沖田。沖田に戦うところを見られていた。
あの時は必死になりすぎていて、危うく命を落としかけたが、なんとか兵士を倒し生き抜くことが出来たのだ。
「ならば、刀を手にすれば良いだけのことだ。」
「………!」
斎藤は近くにあった木刀を月に投げる。
「取れ。……俺がお前の剣術を見てやる。総司が言ったことが、本当なのだと証明してみろ。」
「おい、正気かよ斎藤…!月ちゃんにそれは無理だぜ!」
「そうだよ!月が可哀相だろ!?」
必死に月を庇おうとする平助と永倉。だが、斎藤はやめようとはしない。
月はそれに応じるかのように、投げられた木刀を拾い、切っ先を斎藤に向けた。
「月……!!」
「…………。」
皆が見守る中、場の空気が一瞬にして変わる。
互いに隙を見せないよう、立ちはだかってみせる。