抹茶モンブラン
 なのに、僕の中に残るのはただの虚無感だけだった。

 一時の快楽に溺れてみても、心の満足はまるっきり得られない。
 不思議だ……。
 男っていうのは、そういう欲求を果たせば一通りの満足は得られるものだと思っていた。
 なのに、繰り返す浅い異性交際が僕を幸せに導いてくれた事は無い。
 だいたい僕がぼんやりコーヒーショップで読書とかしていると、声をかけられる事が多かった。
 酒も入ってないのに、そういう誘いをかけられる女性の心理っていうのも分からなかったけど、僕は特定の恋人は持たない主義を貫いていたから気軽にその申し出を受ける。
 ただし、「愛は無い。愛が芽生える事は無い」という条件を最初に必ず念押しした。

 人を愛する事の意味を、どこかで探していた気がするけれど、仕事に埋没するに連れてそういうものとは逆方向に走り出して、戻れなくなっていた。
 PCに向かうか、取引会社との打ち合わせか、プールで泳ぐか、甘いものを食べるか……。
 こんな生活がループのように繰り返されていた。

 体の欲求が減ったと同時に、僕の頭は甘いものを異常に欲するようになった。
 ある意味僕っていう人間は、相当危険な男だと自分でも自覚している。
 極限状態になると、自制が利かなくなる。

 こんな男……、誰とも深く付き合わない方がいいんだ。
 そう思って生きてきた。

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