抹茶モンブラン
 誰にも知られたくない過去の一つや二つはあるだろう。
 だから、僕は乙川さんが知られたくない事なら過去の事を聞きたいとは思わない。
 彼女の醸し出す多少憂いを帯びた表情は、何かつらい過去を乗り越えてきた人のもののように感じる。

 傷を負った者同士、何か惹かれるものがあったんだろうか。
 彼女と過ごすつかの間の時間は、いつでも僕を幸せな気持ちにしてくれる。

 ほんの時々コーヒーショップで雑談するだけの関係だけれど、僕の日常は見違えるように明るくなった。
 乙川さんが暗い道を強烈な月明かりで照らしてくれているから、僕は自分の道を足を止めずに歩き続けられる。

 何度目かの外でのデートの際、思いつきで作ってみたといって、彼女は手作りのクッキーを持ってきてくれた。
 確か高校生ぐらいの頃に一度クラスメイトからこういうプレゼントをもらった気がするけれど、それ以来こんな照れくさいプレゼントを受け取った事が無かった。

「僕に?わざわざ焼いたの?」

 そう言って驚く僕の顔を見て、彼女は笑った。

「そんなすごい事じゃないですよ。喜んでくださるなら、いくらでも作ります。嫌じゃなければ毎日のお弁当だって作りますよ」

 僕が毎日菓子パンみたいなもので昼食を終わらせているのを見て知っている彼女は、食事事情を多少心配してくれているみたいだった。
< 41 / 234 >

この作品をシェア

pagetop