抹茶モンブラン
 一度大事な人の手を私は離された経験があって、その寂しさっていうのは多分一生残るんじゃないかなって思うほどのものだ。
 だから、彼が自分の手を離さないでって思う気持ちはすごく良く分かる。
 私だって、光一さんの手を離さないで、彼がずっと強くこの手を握っていてくれたらって思ってる。

「……」

 何と言葉にしていいのか分からなくて、私は握られた手の上にもう片方の手を乗せて強く力を込めた。

「ありがとう。……じゃあ、行ってくる」

 私の心を言葉無しで理解してくれたのか、光一さんはもう一度軽く私の額にキスをすると、そのままアパートを出て行ってしまった。

 弱虫鈴音……。

 外に向けて見せてきた「泣かない強い女」なんて、どこにもいない。
 私は隣に愛しい人の寝息が聞こえない環境では、安眠出来ない程の弱虫だ。

 仕事に行く仕度をしなくてはいけなかったのに、彼の握ってくれた手の感触を忘れないよう、頬に手を当ててしばらく目をつむっていた。
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