理想の男~Magic of Love~
「幸せにな。

――愛莉」

藤が、私の名前を呼んだ。

――“愛莉”

バリトンの彼の声が、痛む胸に静かに染みた。

もしも魔法が使えるなら、私はこの広い背中が振り向いてくれるように使うと思う。

その悲しそうな顔を、笑顔に変えたい。

また――今度はずっと、私の名前を呼んで欲しい。

「藤!」

私の声に、藤は走った。

遠ざかる背中を追えない自分が情けない。

涙が頬を伝う。

「――うっ…ひ、くっ…」

涙にこらえることができなくて、私はその場にしゃがみ込んだ。

買ったばかりのガリガリ君が、袋の中で溶けて行く。

この気持ちに気づいた私の心もアイスと一緒に溶けて行って欲しいと思った。
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