【B】星のない夜 ~戻らない恋~



咲空良がどん底に落ちていくのが
見てみたかったから。






発信する電話番号。





暫くのコールが続いて、
咲空良の声が聞こえた。




「もしもし。葵桜秋、ごめんね。
 心【しずか】の動画を撮ってたの。

 紀天が大きくなってからも、
 心【しずか】がお母さんで居られるように。

 心【しずか】って本当に凄いよね。
 
 お母さんって、
 あんなにも逞しく慣れるものなのかな?

 紀天の入学式、紀天の誕生日。

 将来を想定して、それぞれの節目の時に
 ちゃんと手紙と動画を見せて欲しいからって。
 
 それでね、今……紀天が成人の日を迎えたその日の
 お祝いシーンを撮影してたの」





興奮したように
紡ぐ咲空良。






もっと落ち込んでたかと思ってたのに……。





そんな咲空良の言葉を右から左に聞き流しながら、
話が途切れるタイミングをただ待ち続ける私。




「そう……。

 紀天が成人の日を迎えた時、
 咲空良はどうしてるのかしらね?

 咲空良、貴女は瑠璃垣怜皇の飾りだけのフィアンセ。
 怜皇さまと寝たわ」




静かに突き刺し毒針。




「寝たって……。
 それは……咲空良として……でしょ」



言葉を詰まらせながら必死に切り返す咲空良。



「違うわよ。

 咲空良としての時間に私が怜皇さまと体を重ねたことなんてないわよ。
 怜皇さまは、咲空良の事なんてどうも思ってないもの。
 
 遺言だからこそ、形だけのフィアンセに迎え入れただけ。
 本当に怜皇さまが愛してくれていたのは葵桜秋としての私。

 咲空良には、その意味が分かるわよね」



最後の語尾まで聴くか聞かないかのうちに、
電話の向こうでドサリっと、物音が聞こえた。



それと同時に咲空良の声が途切れた電話。



『咲空良ちゃん』



男性の声が聞こえて、そのまま電話は切られた。




途切れた電話。




灯りを消して、カーテンを閉め切った部屋の中
携帯電話を握りしめたまま、狂ったように笑いが止まらなくなった。






既成事実が出来た後は、咲空良が望んでいた通り、
キミが、咲空良として生きていけばいいんだよ。





これは復讐なんだよ。
キミの時間を奪い続けた憎き咲空良への……。



キミを利用しようとしたあの女にも、
子供が出来れば一泡ふかすことが出来る。




悪魔の囁きは今も聞こえる。
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