【B】星のない夜 ~戻らない恋~

「紀天、電話だからごめんね」


そう言って、紀天に断りをいれて紀天をしっかりと抱きかかえると着信を受ける。


「もしもし」

「咲空良ちゃん今から心【しずか】を救急車で搬送します。
 紀天を病院に連れて来てくれますか?」


それは突然、やってくる。



「紀天、ママのところに行こうね」


そうやって声をかけて、慌てて公園を飛び出して
メイン道路で、タクシーを捕まえ心【しずか】の主治医がいる病院へと向かう。。


車内では機嫌が戻らない紀天が泣き叫ぶ。
運転手は怪訝そうにチラチラと後ろに視線を送る。



「すいません。
 この子の母親が救急車で運ばれたんです。

 もう少し、スピードあげれませんか?
 母親の死に目に、あわせてあげたいんです」


押し迫る不安が自分の言葉を強くする。

それと同時に自分の口から【死に目】と
いう言葉が出てしまったことにもショックを感じた。


だけどそれは……もうその時がさし迫っていることを
私自身も覚悟出来てるわけで。


運転手さんは自然渋滞にはまったタクシーから
どこかへ無線で連絡してくれる。



「お客さん、そう言うことだったらこのタクシーでは間に合わない。

 自然渋滞と車線規制でこの道を抜けるのに時間がかかるんだ。

 抜け道になる場所にかわりのタクシーを手配したから
 お客さんはこの場所で降りて、右側に。

 突き当りの横断歩道を渡って、
 一本奥の一方通行の入り口が見えてくるから。

 そこに行きなさい。
 間に合うといいね」


そう言って送り出してくれた運転手さんに
お礼を告げて、タクシー代を支払うとそのまま紀天を抱きあげて、
その場所まで必死に走った。


そこにはもう一台のタクシーがすでに待機してくれていて、
裏道を走って病院へと到着する。


駆け込んだ時には睦樹さんと心【しずか】のお父さんが心【しずか】との
最後のお別れをしてるみたいだった。


紀天を連れて病室に入る。


睦樹さんが紀天を抱き上げると、
紀天の手を心【しずか】へとしっかりと握らせた。



心停止を告げるアラームが鳴り響く。


病院の先生が死亡確認を儀式的に行って時計を見つめ、
静かにその時が来たことを告げた。



親友の死は……あまりにも呆気なくて。
私はなかなか実感が得られなかった。



その後も流されるように、
心【しずか】の告別式に立ち会う。


その間も、紀天は睦樹さんと私が交互に抱きしめながら
時間を過ごす。

喪主の睦樹さんは何かと忙しく、
私は紀天を宥めるように一緒の時間を多く過ごしていた。





少しでも長く、心【しずか】の傍に紀天を居させてあげたい気持ち。


まだ小さすぎて、紀天はお母さんのことが何もわからないまま
大きくなっていくような気がして。


ただ時間が許す限り、同じ時間を作り続けた。
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