【B】星のない夜 ~戻らない恋~

35.変化する時間 妊娠 - 葵桜秋 -



近衛葵桜秋として、怜皇様と最期の夜を過ごしたあの日。


あの日から私の生活は豹変した。

いつも怜皇様を見つめ続けられる同じ部署だった今までと違って、
その数日後に発表された人事異動のお知らせ。



*

近衛葵桜秋

かの者を三月十五日付けで異動とする。

*



自身に業務用のパソコンメールへと配信されていた、
その人事異動の連絡は、私にとって残酷なお知らせ以外の
何物でもなかった。





「おめでとう。
 近衛さん、貴方の実力なら当然かもしれないけど、
 貴方のことは怜皇様も高く評価なさっていたわね。

 新しい部署に行っても、お元気で」




そう言って先輩からは声がかかる。





私は役職が欲しいわけじゃないのよ。



瑠璃垣を選んだ理由も、怜皇様が居たから。


瑠璃垣にいれば、怜皇様のお傍で働ける。
憧れの君の傍で、ずっと働くことが出来る。


そんな風に思ってたから。





そんな私の気持ちを見透かすように、
奈都は私と肩を叩く。



プロジェクトが解散しても、奈都は新しい怜皇様のプロジェクトの
メンバーとして引き続き参加し続けることが発表されてた。





「奈都と代わりたいよ……」




思わず零れた言葉に、
奈都はただ何も言わずに私の背中を押した。


私に一歩踏み出させるためにしたのかも知れないけど、
そんな行為すら、苛立ちを感じずにはいられない。




異動に伴う送別会を開いて貰ったけれど、
その会場にも、一番傍に居て欲しい怜皇様の姿はなかった。






そう……怜皇様は、私よりも咲空良が大切。




心【しずか】の容体が、このところ思わしくなくて
咲空良がずっと電話をしてきては、電話の向こうで泣いてる。






「ねぇ、葵桜秋。
 最近になってわかってきたの。

 怜皇さんって本当に優しいね。
 ずっと怖かったけど、今も毎日のように怜皇さんは
 時間を見つけて私の傍に居てくれてる。

 葵桜秋が怜皇さんと体の関係を持ったって言うのは
 正直ショックだったけど、だけど……もう終わり。

 私は咲空良として自分の足で歩いていくし、
 もう葵桜秋に入れ替わってってお願いすることもないから」




ずっと泣き続けていたのに、最後の最後で
咲空良の言葉に衝撃を覚えずにはいられない。



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