【B】星のない夜 ~戻らない恋~


私が咲空良を利用してたの。


なのに……何?
いつも汚れ役は私で、あの子は清らかなまま。




怜皇様にずっと振り向いて欲しくて、
必死に認められたくて頑張り続けてた私は
異動であうこともままならない。




一緒に何かをすることすら怖くて出来なくて
ずっと頼り続けてた咲空良は、泥棒猫みたいに私から怜皇様を奪っていく。




許せないのよ。




憎悪にも似た感情が私の心の中をどろどろと沸騰させていく。





異動日になった新しい部署にかわった後も、
退屈で遣り甲斐も感じられなくて、上司にはお小言。


瑠璃垣に入ってまだ経験の浅いが私が、
いきなりの出世で上司になったことで、新しい部署からの風当たりは冷たい。



何時、退職してやろうか……辞表を出そうかと思いながらも
何とかして怜皇様の傍に戻りたくて、怜皇様のお養母さまのもとにも足を運ぶ。





レストランの密室で、お養母様と時間を作るものの



『貴方はその程度と言うことですね。
 ですが、貴方も十分にやりましたよ。

 手切れ金はいくら必要ですか?
 所詮、貴方もお金が目当てでしょう?』





そう言って目の前に広げられたのは、小切手の用紙。



怜皇様も同じだった。
朝起きて金額の欄が空白の小切手だけが残ってた。



手に取って、億単位の金額を一度は書いてみるものの
そんなものですっきりするはずもなく、自分が空しくなるだけで
怒りをぶつけるように、ビリビリに引き裂いて灰皿の上で火をつける。


灰になって燃え落ちた紙。


そんなもので……私と怜皇様の時間が、
なかったものになるなんて思わないで。




目の前の小切手も、奥さまの目の前でビリビリに引き裂く。




『貴方、何のつもり?』

「私は怜皇様をずっと愛しています。
 私が彼と体を重ねたのは、奥さまに言われたからではありません。

 彼が私を愛してくれていたから、私が彼を愛していたから。
 それ以上でもそれ以外でもありません。

 ですから、貴方の小切手を受け取って、なかったかのようなことを
 することは出来ません」





そう告げてレストランを後にする。


ヒステリックに叫び続けるその声を背に、
私は信じている愛の結晶の宿る場所に、そっと手を当てた。




3月20日。
心【しずか】が死んだ。


私の元に咲空良から電話が入った。



悲しいとか、そう言う気持ちは芽生えなかったけど
心【しずか】の死を悼んで集まった同級生たちと一緒に、
咲空良とは別のグループで私も式に参列した。



葬式の間、私はただ怜皇さまと肩を寄り添わせる
咲空良の姿ばかりに視界がいってた。


咲空良の腕に抱かれた心【しずか】の子供が、
二人の子供の用にすら錯覚する。




吐き気がする……。
< 123 / 232 >

この作品をシェア

pagetop