音匣マリア
12月に入ってからはずっとフレアの大会の練習に余念がない。

菜月には毎日電話をしているが、一人でいる時は大体酒瓶を両手に大道芸並みのパフォーマンスを繰り広げている。





―――そして、大会当日。


都内の有名ホテルの一間を使って、国内大会の予選から決勝までが行われる。

前に出た時は緊張して凡ミスをやらかしたが、今回は何故か緊張はしていない。


頭の中にあるのは、この大会で優勝して、それを一番に菜月に伝えたい…って事だけだ。



優勝できればシンガポールで行われる世界大会に行ける。



優勝したら、菜月と一緒にシンガポールに行くんだ。


婚前旅行でもいい。そこで菜月に、プロポーズしたいんだ。


……ただの自己満足かも知れないが、本気でそんな夢を抱いて何が悪い。




その念だけで、神経が研ぎ澄まされているかのように感じてる。



不思議と雑念は入って来ない。



俺の前に演技を披露した奴等のテクニックを見たが、同じ技を何度も使う奴や場馴れしてなくて瓶やグラスをブレイクする奴、曲に合わせられずテンポがズレる奴、様々だった。



かと思えば、大会常連の奴等の演技はやはり堂々としていて圧巻だ。


そんな中、静かに俺の演技審査が始まった。


準備は万端に整えてある。


後は集中してやりきるだけ。


静かな場内に軽快な曲が響く。


その中に混ざる和テイストの三味線の音。


いつもやってるように瓶を投げ、それを背面でキャッチ。それからは大技の連続。



ようやく演技を終え、5分間という時間内に課題のカクテルを作り上げて台の上に置く。



演技終了、だ。


自分が見るところ、減点になりそうなミスは犯していないし課題もクリアしている。




上手いこと上位に食い込んでくれるだろうか……?




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