音匣マリア
出社したらまず制服に着替えてタイムカードを押す。


すると誰かに肩を叩かれた。


昨日の歓迎会で同席した先輩の一人だ。



「昨日は楽しかったねー。でも菜月、中井さんと海野さんに送られて帰ったんだって?つか、中井さんとは知り合いなの?だったら紹介してよ!あ、海野さんでもいいけど」


一方的に止めどなく話を続ける先輩にはげんなりだ。


そんなに出会いがほしいのかな?

てゆーか、この先輩には彼氏さんがいたんじゃなかった?同僚の営業マンだったはずだけど。


私そういう軽い付き合いって好きじゃないんだけどな。


「紹介するも何も、ヨッシー……中井さんには好きな人がいるみたいだから、他の女の人には見向きもしてないですよ?」


可愛いげがないって兄貴には言われるけど、私はこういうのが嫌いなんだからしょうがないよね。


それに先輩をヨッシーに紹介してトラブルに巻き込まれても嫌だしさ。


「えー!好きな人ってまさか菜月だったりする?」


いやいや、なんでそうなる?


私にとってのヨッシーは、兄貴と同じポジションだと思ってるのに。


だからヨッシーには恋愛対象としての感情は持っていないんですけど。


「中井さんが好きな人は、私なんかよりすごく綺麗でずっと大人な人ですよ。中井さん、もう何年も一途にその人のこと好きみたいですから」


先輩がしつこく食い下がろうとしたので、うんざりした私はにこやかに営業スマイルを顔に貼り付けてその場を去った。



ああ、兄貴といい先輩といい、朝から色恋沙汰でこうも盛り上がるなんて元気だなぁ。



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