音匣マリア
ゲームのスコア対決に熱中していたら、いつしか時計の針は19時を指していた。


ゲームを切り上げ、近場のイタリアンレストランで飯を食う頃には、ようやく菜月の警戒心も解れてきたように見える。



今日は1日ずっと一緒にいたのに、まだ離れたくないと感じる自分に戸惑ってしまう。


二人で色んな話はできたけど。


菜月が過去にどんな男と付き合ったのか、どんな恋愛観をもっているのか、そんな話を聞き出せたし。


今まで付き合った男とは淡白な付き合いしかしなかったと菜月は言う。

一途にのめり込むような恋愛はしたことがないのは俺も同じだと告げると、妙に納得して頷かれてしまった。



「束縛したりされたりが、めんどくさいんだよね」


なるほど、確かに妥協や雰囲気の流れで付き合うなら、たとえ彼女だろうが彼氏だろうが束縛されるのは、逆に苦痛に感じるかもな。俺もそうだったし。


でもこれが菜月相手になると、なぜか束縛したいと思う。



今日俺と一緒に過ごしてみて、菜月は俺の事はどう思っているんだろう?


口に出してそれを聞くのが怖いんだ。

でも聞かなきゃ先には進めない。


菜月を家に返す前に、どうにかしてその気持ちを聞き出したいんだけどなぁ…。



「あ、観覧車!」


不意に菜月がライトアップされた観覧車を指差して歩きだした。


「乗りてーの?観覧車」

「うん、観覧車に乗ったら夜景が綺麗に見えそうだから。満月にも近づけそう」



空を見上げると、シニカルな満月が俺達を見下ろしていた。



妖しく紅く光る月が、俺達二人に魔法をかけているみたいだな。







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