音匣マリア
同じく瀬名さんに憧れてこの世界に入った奴の中には、中井というムカつく奴もいたけど。


何故かソイツもバーテンになりやがった。しかも俺より大きな店舗を任されている。年上だからって嘗めてんじゃねーよ。中井マジうぜェ。

中井に呪いをかけつつ、副店長の山寺の話を聞く。

「今日使うヤツはみんな式場の方に運んでおきました」

「あぁ、サンキュー」

「人気ありますよね、海野さんのショー」

「稼げねーと困るんだよ。ところで、フェアって何時からだっけ?」

「正午からです。そろそろ行きますか?」

「あぁ」と短く答えて、今日の仕事場へ向かう。

ハウスウェディングの式場が、今日の仕事場。

今日はここで、ブライダルフェアが開催されている。

モデル挙式は、チャペル式。ドレスに身を包んだ花嫁役と、慣れないタキシードを着せられた新郎役が初々しい。たまに、そこそこ売れてるモデルも使うが、今日は式場のスタッフがモデル役だ。



ところで今日の司会役だが、俺に何回も告ってきて正直ウザいんだけど。ヤるだけヤったら…とか思ったけど本気になられても後々面倒くせェ。今日もまたスルーしよう。

デモンストレーションは進み、結婚式・披露宴と続く。


今日の花嫁役は、見た事のない娘だった。あんなヤツ居たっけ?



柔らかいハニーブラウンの髪。小動物のような小さな顔。目はくりっと大きく、スレていないかのようにきらきらと輝く瞳。


「……お楽しみの皆様には、披露宴の演出の一つ、フレア・カクテルショーをご覧頂きたいと思います」


その号令がかかると俺の出番。


やべ、意識を仕事に戻さねーと。




フレア・カクテルショー。



昔の映画「カクテル」で、トム・クルーズがやっていたやつ。音楽に合わせてパフォーマンスしながら、カクテルを作るというアレだ。



式場内にポップで軽快なリズムが流れ出し、ホイッスルをくわえた俺が乱入すると、式場内が微かにざわめいた。



積み重ねたグラスの中には、一つずつ色が違う酒が入ってる。一番上のグラスを弾きとばすと、中の酒が下のグラスに流れ、それぞれが色を変えていく。


出来上がった瞬間、七つのグラスに入っていた酒は、虹色になった。


出来上がったカクテルを女性客へ渡していくと客達は、ほぅ、と溜息をつきながらそれを手にして席に戻っていく。


コリンズ三つに、それぞれ白・ピンク・赤のカクテルを作ると、花嫁役の方へ、ピンクのカクテルを運んでやった。


……なんだ、コイツの目。すげぇ澄んだ目で見てきやがるもんだから、思わず引き込まれそうになる。


場の雰囲気に呑まれて紅潮したほっぺたとか、かわい過ぎじゃね?


「……ありがと…」


呟いたその声は鈴のように軽やかで、もう一度聞いてみたくなる。



この後連絡先聞き出せねーかな?

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