浮気は、いいよ。
「………ケバブて。」
悠介がニヤニヤしながらこっちを見た。
「拾わなくてイイから。 流しといてよ」
「もー、やめろよなー。 オレしかいねーのに、豪快に滑りやかって。 オレ、処理出来ねーっつーの」
悠介はおにぎりのシートを剥きながら、ワタシに意地悪を言ってきた。
「滑ってない」
自分でも『それはない』と思いながらも言い返す。
「どんな嘘だよ」
悠介は、そう言いながらおにぎりの頂点を小さくむしった。
悠介こそ『どんな食べ方だよ』と思った。
「変な食べ方」
「滑り倒すよりマシ」
ダメだ。 完全に弱み握られてる。 もう何も言わないでおこう。
グレフルジュースに口をつけた。
甘い。 酸っぱい。 苦い。 でも。
「………おいし」
さっそく喋るワタシって。
ワタシ、そんなにおしゃべりだったかな。
「優ー里。 コレ、オレの車じゃないから吐いてもいいよ」
悠介は、小さくむしったおにぎりの欠片をワタシの口の近くに持ってきた。
変な食べ方は、ワタシへの優しさだった。
「知ってたんだ、ワタシの吐き癖」
「………高校の時、優里傷付けた時、優里のトモダチにめっさ責められたからな。
優里、みるみるやつれるし」
悠介の優しさは、昔の罪ほろぼしなのかもしれない。
それでも悠介に縋りたい。
今、こんなワタシを気にしてくれるのは、悠介だけだった。
「…………」
吐き気を恐れながらも、小さなお米の塊を口に含む。
…………ダメだ。
吐き気がこみ上げる。
涙も湧き出る。
でも、悠介の優しさを吐き出したくない。
小さな塊をこれでもかと噛み砕こうとするも、吐き気で顎が動こうとしてくれない。
グレフルジュースで流し込もうと伸ばした手が震える。
「無理させてゴメン。 吐き出せ」
悠介がビニール袋をワタシの顔に当てた。
この袋じゃ、追いつかない。
さっき飲んだジュースもきっと一緒に出てくる。
吐き気はどんどん加速する。
…………我慢出来ない。
急いで車を出て、駐車場の隅に吐き出す。
追ってきた悠介がワタシの背中を摩った。
「見……ない……でッッ。 臭……いし」
「正直オレ、もらいゲロするタイプだから、全然見てない」
悠介は、ワタシの介抱を辞める気はないようだ。