天使の歌
この次元は、幾つもの世界から成り立っている。
人間が生きる世界、人界。
悪魔が生きる世界、地界。
天使が生きる世界、天界。
最も大きな この3界が、次元を支配している。
この物語は、天界で暮らす少女の、戦いの話――。
(急いで帰らなきゃ。ネスラさんに ご迷惑だよね。)
森から村へと入ったキュティは、帰路を走っていた。
「あっ、おい、見ろよ!“片翼のキュティ”だぜ!?」
「うわっ、マジだ!!」
キュティを見た村の少年達は、彼女を指差すと眉を顰めて叫んだ。
「あっち行け!!近寄んな!!」
キュティは その少年達等 見向きもせずに走り去る。
気にしないように していても。
その言葉は彼女の胸を抉る。
自分が周りと違うと気付いたのは、いつだったろう。
(私には生まれ付き、翼が片方しか無い。)
私が、天使と人間の混血(ハーフ)だから。
その所為で私は、幼い頃から虐められ、差別されて来た。
(でも、優しい人も居る。)
「只今。」
そう言いながらキュティは、少し古ぼけた簡素な家の扉を開ける。
「お帰り。」
そう言って優しく微笑んだのは、白髪が混じった黒髪を後ろで1つに纏めた女性だった。
(この人は、ネスラさん。)
昔、私の両親に助けて貰ったらしく、両親を亡くした私を育ててくれている、心優しい人。
ネスラと言う女性の隣には、先程キュティに声を掛けた青年が立っていた。
(彼は、ネスラさんの息子のネスティ。本当の兄のように、優しくしてくれる。)
手に持っていた籠を机の上に置き、キュティは小さく溜め息を吐いた。
母の世界である人界へ行く事も考えた。
でも、人間は異種を絶対に認めない。
此処より酷く迫害される事は容易に想像 出来た。
(それに……。)
キュティはネスラとネスティを、ちらっと横目で窺った。
見る者が幸せな気持ちに なるような、暖かな笑顔。
(天界には、信頼 出来る人が居る。)
知人が居ない人界で生きて行ける自信が、私には無かった。