紅蓮の腕〈グレン ノ カイナ〉~六花の翼・オーランド編~
「コートニー、おとなしくこちらにおいで」
その声は、甘く低くコートニーの鼓膜を揺さぶる。
普通の人間ならすぐに操られてしまう、悪魔の声だ。
「……私が行ったら、この人たちには手を出さないでくれる?」
「今だけならね。
いずれは白魔法師は全員、地獄行きだけど」
そうなのだ。
今オーランドや白魔法師を助けたとて、自分が悪魔のキメラにされたら。
その自分を、プリンスが操ったら。
黒魔法師以外の人間は、死に絶える。
「ちょお、待て……」
コートニーの手を、ぎゅっとにぎったのはオーランド。
「あんたが総元締めなんやな」
「君が噂の人と悪魔のキメラか……僕のコートニーから手を離せ」
「嫌や。あんたらに、コートニーは渡さへん」
「……生意気なガキめ」
どうみても20歳そこそこのプリンスだが、彼はオーランドを蔑む。
その視線と目があっただけで、オーランドに変化が起こった。
「ぐ……っ!あ…っ」
「オーランド!やめて、お願い!」
オーランドの右腕にいる悪魔が、「ここから出せ」と暴れているようだった。
血管が這い回り、肉が盛り上がる。
「は……僕はなにもしてないよ。
彼の中の悪魔が、僕の血に反応しているだけさ」
「う…ぐ、あぁ……っ!」
プリンスは魅惑の美貌で微笑むと、ナンシーの方を向いた。
「さて、今日は帰ろうかナンシー」
「プリンス……」
「きみは怪我をしているし、僕も本調子じゃない」
プリンスは彼女に手を差し伸べた。