紅蓮の腕〈グレン ノ カイナ〉~六花の翼・オーランド編~
「ああ、めんどうくさいことになってる」
白魔法師の軍団を見つけたカートは、うんざりした。
「まあいいか。少し見学させてもらおう」
遠くから彼らを見つめるカートの前で、精霊たちが束になってオーランドに押し寄せる。
「シド!」
コートニーの声がすると、水色の魔法陣が彼らの前に現れる。
それは精霊たちをいったんは退けるが、すぐにところどころに穴が開いてしまう。
「数が多すぎる!」
文句を言ったコートニーの後ろから、オーランドが躍り出た。
「ほんまやな!」
彼が右腕を振り下ろす。
その腕から金色のオーラでできた、もう一本の巨大な腕がのびる。
それは精霊を飲み込み、地上へ押しつぶした。
「あれ、なんも変わらんがな」
もともと威力の大きなオーランドの力は、彼自身にとっても変化がないように思えた。
オーラの指の隙間から逃れた精霊が、白魔法師の元へ戻る。
「雑魚が束になったかて、無駄や」
アーロンが前に出る。風の精霊が、彼の周りをくるくると回っていた。
「もう容赦はせんで、オーランド。
お前は厄病神や。
お前さえおらんかったら、おとんもあんなことはせんかった。
うちをグチャグチャにするんは、いっつもお前や……」
確かに同じ血が通った、似た骨格の兄弟。
しかしその間には、もう修復できないほどの溝がぽっかりと空いていた。
アーロンが魔法陣を呼び出すと、周りの白魔法師ものけぞるほどの突風が、彼の周りを吹き荒れる。
「そんなん、知らんわ。
僕がいつ、悪魔の力が欲しい言うた?
お母ちゃんと離れたい言うた?」
オーランドの声が、微妙な怒りをはらむのを、コートニーはさとった。
「いつ、僕が戦いたいだなんて、言った……?」
彼の声の響きが、低くなる。
「僕かて、こんなうちに生まれとうなかったわ!」
オーランドが右手に力をためる。
そのとき、コートニーは気づいた。
彼の指先が、赤く腫れているのを。