王に愛された女
オラシオンは驚いて顔を上げた。
ガブリエルは左上腕部を押さえた。
「私は記憶がなくて、自分がどんな生活をしてきたのかわかりません。でも、寝ているときにときどき、うなされるんです。それはいつも同じ夢で…。荒れ果てた村と、たくさんの死んでる人たち。その人たちを私は知っていて、皆が私を呼ぶんです」
オラシオンはガブリエルを強く抱きしめた。
ガブリエルの青い目から涙が溢れた。
「助けてくれって私に言うんです。でも、私には皆が誰だかわからないし、助けることもできない。地面に立っている人が言うんです。オマエは奴隷だから生きてる意味などない、って、そこでいつも目が覚めるんです」
オラシオンはガブリエルの耳元で
「もういい。それ以上何も言わなくていい。言うな」
と力強く呼びかけた。
「私には、生きてる意味なんて…「ある。俺がオマエの生きる意味になる」