王に愛された女



 オラシオンは驚いて顔を上げた。

 ガブリエルは左上腕部を押さえた。

「私は記憶がなくて、自分がどんな生活をしてきたのかわかりません。でも、寝ているときにときどき、うなされるんです。それはいつも同じ夢で…。荒れ果てた村と、たくさんの死んでる人たち。その人たちを私は知っていて、皆が私を呼ぶんです」

 オラシオンはガブリエルを強く抱きしめた。

 ガブリエルの青い目から涙が溢れた。

「助けてくれって私に言うんです。でも、私には皆が誰だかわからないし、助けることもできない。地面に立っている人が言うんです。オマエは奴隷だから生きてる意味などない、って、そこでいつも目が覚めるんです」

 オラシオンはガブリエルの耳元で

「もういい。それ以上何も言わなくていい。言うな」

 と力強く呼びかけた。

「私には、生きてる意味なんて…「ある。俺がオマエの生きる意味になる」

< 110 / 267 >

この作品をシェア

pagetop