王に愛された女
視察が終わった。
城下町の雰囲気を変えるためにも、一度視察をしておく必要があったからだった。
城下町の店は、あまり金回りがよくないことがよくわかった。ルークは欠伸をした。
乗っている馬車の窓から顔を出し、外の様子を窺う。
刹那。
ルークはハッとした。
「…え?」
かすれた声が口から飛び出す。
「ねぇ、お父様?家に帰ったら、お母様、どういう反応してくれるかなぁ」
馬車のすぐわきを――ルークの目の前を、ピンクの衣をまとった少女が歩いて行った。
少女は、背の高い男の左腕をしっかりと掴んでいる。
「きっと喜んでくれるさ」
そう答えた男の声に、聞き覚えがあった。
緑色の髪が、風になびいている。緑色の左目には斬りつけられたような傷が一つ、亀裂のように走っていた。
「…まさか」