月陰伝(一)
今から一年前の話だ。

「ははっ。
こりゃぁ、結果発表が楽しみだ」
「バカ。
二人並んでトップなんて、教師陣がひっくり返る」
「でもやるんだろ?
ひっくり返るどころか、ショックで当分使い物にならんかもな。
はははっ」
「刺激も必要って?」
「だな。
打たれ強さは、いくつになっても鍛えて損はないからな」

一日目のテストが終わり、最近作った屋上の小屋で過ごしやすいよう環境を整えていた。

「しっかし、私らも律儀だよな。
小学校の時のジジイの言い付けを未だに実行してたんだから」

その昔、煉のじい様、”御影凛之助”が言ったのだ。

『お前ぇら小っせぇな。
百点なんて、凡人でも取れらぁ。
俺の跡継ぐやつらなら、先公の頭ん中探って、キッチリ全部七十五点にしてみろ。
百点取るよかよっぽどおもしれぇだろ』

この言葉で、私達はオール七十五点を目指してテストを受けてきた。
勿論、教師に怪しまれてはいけない。
近そうな答えで外し、解答欄は全て埋める。
配点を計算して、より七十五点に近くする。
それがテスト万年平均点の理由だった。
その長年の戒律を解く決意をした理由は、クラスメートの些細な陰口だった。
その日、授業が終わり、いつもの様に煉夜が迎えに来た。
二人揃って教室を出て、扉を閉めると聞こえてきたのだ。

『御影ってお嬢様なんだよね?』
『そうそう、大財閥のご令嬢だって』
『でも、お嬢様って頭良いのが普通でしょ?
彼女、テストとか普通じゃん?』
『そりゃぁ、そう言う教育をしなかったんでしょうよ。
見た目は美人だし?
可愛がられて育ったんじゃない?』
『唯一の友人も、平凡なやつだしね。
見るからにガリ勉なのにそんな頭良くないよね』
『ただの根暗女じゃん』
『はははっ』

そんなこんなで、少しいらっとしてしまったのだ。

「間違いなく満点だな
「やっぱ不味くない?」
「カンニングとかは疑うだろうが、私も結もテストの時は最前列だろ。
疑いようがない」
「そこを勘ぐってくるのが、人間じゃん。
万年平均点だった生徒が、二人も満点取ったら面倒な事になりそう…」
「今さらだろ。
授業中に集中攻撃されたりしてな。
ははっ、これで退屈な授業からおさらばだ」
「お〜い…そんなはっきり…。
確かにうちらにとったら、今更高校レベルの授業なんて、頭の体操にしかならないけど…」
「お前も言うねぇ。
まぁ、確かにな」

これも、煉のじい様のお陰だ。
曰く。

『他人に教えてもらう勉強なんて、頭使わねぇんだ。
本当の勉強ってのは、時間掛かっても、自力で考えて理解してくもんよ。
お前ぇら、二人でウンウン考えて取りあえず日本の大学レベルまでやってみろ。
学生の内が一番時間があるんだからよ』

と言われたのが小学校六年の時。
真面目にコツコツ二人で続け、中学卒業の段階でこの課題はクリアした。

「ジジイのやつにこの前、もうそろそろ学校でも素に戻すっつたら、『何だ、まだネコ被ってたんか』だってよ。
てめえが言い出しっぺじゃねぇかっ」
「まあまあ、んじゃ許可は出てるって事だ」


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