星月夜のマーメイド


それまで黙って聞いてくれていた中島さんが、「赤ちゃん?」と初めて言葉を挟んだ。


「…今その赤ちゃんは?」


「…。」


「あっ、ごめん。言い辛かったら無理に言わなくてもいいのよ。」


「…ごめんなさい。違うんです。」


涙がほろりと私の頬をつたった。




言葉に出来ないほどの愛しさと悲しみ。


拭いきれない後悔。


どうやったら自分の気持ちって相手に伝えることができるのだろう。


「中島さん…。これ。」


私はバッグから一枚の写真を取り出した。


「私の赤ちゃんです。」


それは、お腹の中でやっと形になりつつある可愛い赤ちゃんの超音波写真だった。


「5か月目に入ってしばらく経った頃でしょうか、亡くなったんです。」


その言葉を聞いた中島さんは、思い切り私を抱きしめてくれた。


(中島さんって温かい。人肌のぬくもり。久しぶりだな。)


「ちょっとだけ…胸も大きくなったりして。少しの…期間でしたが、楽しい妊娠ライフでした。」


泣き笑いの変な顔の私に、「変な顔!」と笑った中島さん。


笑ってくれてありがとう。中島さん。


「可愛い赤ちゃんだね。愛おしいね。」


「はい。可愛いですよね。私の宝物です。」


中島さんは私の頬を撫でてこう言った。



「今の顔、お母さんの顔だね。」



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