♡祐雫の初恋♡

「あの……

 御送りいただいても、よろしゅうございますの」


 祐雫は、運転手のいない慶志朗の車を覗きこむ。


「大丈夫ですよ。

 攫(さら)ったりはしませんから。

 それとも、ぼくの運転が心配ですか」

 慶志朗は、いたずらっぽい視線で、祐雫を見下ろした。


「まぁ、そのような」

 祐雫がは、躊躇しながら、車の助手席に乗り込むと、

 慶志朗は、恭(うやうや)しく車の扉を閉める。


「先ほどまで活きが良かったのに、

 何だか急に淑やかになってしまいましたね」


 慶志朗は、運転席に座ると、

 祐雫の顔へ自身の顔を近付けて覗き込む。


「嵩愿さまが突然いらっしゃったので、

 驚いてございます。

 そのようにお顔を近付かれては、恥ずかしゅうございます」

 祐雫は、音楽会で、慶志朗から頬を触れられた瞬間を

 思い出し、慌てて両手で顔を覆い隠す。



「さて、桜河のお屋敷への道案内は、祐雫さんにお任せします。

 この辺りの地理には詳しくないのです」


 慶志朗は、祐雫のしぐさを可愛いと思いつつ、

 ゆっくりと車を発進させた。

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