祈りの月
それでも、カイが残った理由。 それは、家族のように逃げるように――いや、実際、逃げたのだが――ティルシアを後にしたくはなかった。
だから一人で意地を張って残ったのだ。今、考えればその当時子供だったが、別に家族がいないからといって、寂しがるほど子供ではないのだと思い込んでいた。
もっとも、父親とは、同じ星にいる時ですら会いたいとすら思わなかったが。
けれど。
地球へ帰還するということは、カイにとっては、逃げると同義に思えた。
逃げたくなかった。
父のようには。
妹や、母のようには。
(俺は――あの人とは違うんだ・・・・・・!)
地球への帰還は、海を・・・ティルシアの『原始の海』を見捨てることだ。
きっと、そうなる・・・・・・。
「・・・・・・海を見るの、好きなの?」
「え?」
ふいに背後から声がかかり、自分の考えに沈みこんでいたカイは我に返った。
振り返ると、17、8才くらいの、長い黒髪の少女がいた。さらりとした感じの、白いワンピースを海風に揺らしながら、カイを見つめていた。
大きくぱっちりした黒目が印象的だ。
「こんばんは」
少女はにこりと人懐こい笑みを浮かべた。
「となり、座っても?」
「・・・・・・」
カイが戸惑って答えないうちに、少女は彼の隣に膝を抱えて座り込んだ。
だから一人で意地を張って残ったのだ。今、考えればその当時子供だったが、別に家族がいないからといって、寂しがるほど子供ではないのだと思い込んでいた。
もっとも、父親とは、同じ星にいる時ですら会いたいとすら思わなかったが。
けれど。
地球へ帰還するということは、カイにとっては、逃げると同義に思えた。
逃げたくなかった。
父のようには。
妹や、母のようには。
(俺は――あの人とは違うんだ・・・・・・!)
地球への帰還は、海を・・・ティルシアの『原始の海』を見捨てることだ。
きっと、そうなる・・・・・・。
「・・・・・・海を見るの、好きなの?」
「え?」
ふいに背後から声がかかり、自分の考えに沈みこんでいたカイは我に返った。
振り返ると、17、8才くらいの、長い黒髪の少女がいた。さらりとした感じの、白いワンピースを海風に揺らしながら、カイを見つめていた。
大きくぱっちりした黒目が印象的だ。
「こんばんは」
少女はにこりと人懐こい笑みを浮かべた。
「となり、座っても?」
「・・・・・・」
カイが戸惑って答えないうちに、少女は彼の隣に膝を抱えて座り込んだ。