祈りの月
「風・・・・・・気持ち、良いね」

 大きく息を吸いながら少女は言った。

 真っ直ぐのくせのない髪が、海風をはらんでなびく。

「私は、レイア。あなたの名前は?」

「――カイ」

 カイが名乗ると、少女は確かめるように何度か小さくカイの名前を繰り返して、にっこりと大きく微笑んだ。

「カ、イ・・・・・・いい名前ね! ほんとは、ずっと知りたかったの、あなたの名前」

「?」

「カイは、地球の人よね。地球の海は、どんな色をしてるの? 波は? 魚たちは? ティルシアの海と、何が違うの?」

 レイアは好奇心で目をきらきらさせながらカイを覗き込んだ。

矢継ぎ早な質問攻めにカイが黙っていると、レイアは一呼吸おいてから、再び口を開いた。

「私知りたいの。私、地球の海のこと」

「・・・・・・悪いけど、俺は、生まれたのも育ったのもここだから、・・・・・・地球のことはあんまり・・・・・・写真でしか知らないんだ」

 本当に何も知らなかった。

 いや、正確には、知りたいと思わなかったのだが・・・・・・。

 まさか、帰るかもしれない、なんてつい最近まで思わなかったのだから。

「そう・・・・・・。なんだ、残念」

 海風に髪を揺らしながら、レイアは首を傾けた。

「海が、好きなのね。カイは研究所の人、でしょう? いつも船に乗ってるもの」

「・・・・・・良く知ってるな」 

 カイは少女の言葉に、興味をひかれた。

 どこで見られていたのだろうか。

 海洋研究所は、町からけっこう離れた場所にあるので、用がない一般人はまず来ない。

 来るのは施設関係者ばかりなので、知らない顔を見ればすぐに分かる。
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