祈りの月
「ティルアの月は、願いを叶えてくれるわ。知ってるでしょう?」

「知ってるけど・・・・・・」

 そんなのは、カイの中ではただの言い伝えだった。月に祈れば、願いが叶う・・・・・・なんて。

「いつも感じてた。カイの心。海への思い・・・・・・だから、私、カイに会いたかったの、どうしても」

 レイアは真っ直ぐにカイを見た。

 その瞬間、カイはレイアの瞳の美しさに、改めて気が付いた。

 深く黒くて、透き通る、強い瞳・・・・・・。
 夜の海と同じ色だ。

 脳裏に、映像でしか見たことのないイルカの姿がよぎる。

 青く輝く海の中で、水と戯れるように、自由に泳ぐ、美しい生き物。

「――イルカというと、あれだよ、な」

「そう、あれ、よ」

 クスクス笑いながら、レイアが頷く。

「だからね、祈るしかなかったの。カイに会いたかったから。でも、良かった。こうして会えたもの」

 そう言われても、半信半疑だった。

 イルカはとても頭のいい生き物だ。

 地球人移住の際、何十頭かが『原始の海』に放たれたと聞く。

 ここ、10年は見つかっていないはずだ。

(彼女が、イルカ・・・・・・)

 不思議な感じだった・・・・・・本能的な部分では、レイアの言っている事を真実だと受け止めてしまっているような。
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