祈りの月
「カイは、いつも、死んでしまった魚たちを、海に還してくれるでしょう?」

 ・・・・・・ざあぁぁぁん・・・・・・と海が鳴った。

 波打ち際に、白い軌跡が残る。

「嬉しかった・・・・・・カイの気持ちが」

 吐息のように、小さく、レイアは言う。

「――」

 どうして・・・・・・知っているのだろう、この少女は。

 研究所の関係者ではないのに。

「海は、私たちの家なのよ。それに、お墓でもあるの。死んだら、私たちは海の底にあるお墓へ行くのよ。カイのおかげで、みんなは帰って来られたわ。
 ・・・・・・ほんとうに、ありがとう」

「・・・・・・私、たち?」

 レイアは、空を仰いだ。

「ティルアの月に、祈ったのよ、強く、人になりたいって」

 雲ひとつない星空に浮かぶ、大きな銀の月。

「私は、ほんとうは・・・・・・イルカなの」

「?」

 レイアの言葉は、カイには理解しがたいものだった。

 イルカは、地球から運ばれて、ティルシアの海に放たれていたが、海の汚染が進んでからは、まったく姿を見ることはなくなっていた。

 汚染毒によって、絶滅したと、学者たちの間では、考えられている。

 彼女が、その・・・・・・・?

「信じてくれないかもしれないけど・・・・・・嘘じゃ、ないよ」

 カイの戸惑いを見抜いたように、レイアが微笑んだ。

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