祈りの月
 サリーシャは、ただ優しいだけなのだ。
 
 けれど、カイには、そのサリーシャの優しさが苦痛だった。

 その言葉に甘えられるだけの心の強さが、カイにはなかったのだ。

 その優しさに触れるたびに、分かっていても、サリーシャを傷つけてしまうから。

 だから、できるだけ、顔を合わせたくなかった。

 カイは、今から10年前、・・・・・・だからカイが12歳の時から、6年間、サリーシャの家で世話になっていた時期があった。

 父と母と、妹は、地球へ帰ることを決め船に乗って行ってしまった。

『カイ、お願い、一緒に来て。お願い』

 母親からの最後の言葉は、それだった。

 どんな表情をしていたかはもう思い出せない。

 もしかすると、泣いていたかもしれない・・・・・・二度と息子と会えなくなるかもしれないという予感を胸に・・・・・・。

 けれど、カイは一人でも、ティルシアに残ることを強く決意していた。

 汚れてしまった海を、救いたかった、どうしても。

 父の手から―・・・。

 カイが一人で残ると言い張った時も、父親は何も言わなかった。来いとも、勝手にしろとも。

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