祈りの月
 彼女の姿を見た瞬間、すぐにでも捕まえなければ、幻のように消えてしまうかと思った。

 それほどに、レイアの全身からは強い孤独感があふれていた。

 彼女は、この惑星に、ただ独りなのだ。

「カイ、すごく怒ったでしょう? だから、もう許してくれないって・・・・・・っ!」

「怒ってない・・・!」

 声が震えたレイアの体を、カイは強く抱きしめた。 細い体が、小刻みに揺れて、レイアの心の揺らぎをカイに伝える。

「違う――怒ってないよ。謝らなきゃいけないのは、俺の方だ、レイア、ごめん」

 カイはレイアの濡れた髪をすくい上げ、両手で冷たい頬を包み込むと、黒い瞳を真っ直ぐに覗き込んだ。

 意志の強い瞳のふちには、透明なしずくがこぼれそうにあふれていた。

「ごめん」

 ―・・・愛しかった。

 初めて、はっきりとカイはそう感じていた。

 レイアを愛していた。

 いつのまに、レイアにこんなにも心が惹かれてしまっていたのだろう。

「俺は、分かりたいよ。レイアの考えていることも、海の思いも・・・・・・だから教えてほしい」

 気持ちを注ぎ込むようにレイアの眼差しにカイは語りかけた。

「うん・・・」

 細い肢体を、カイは両腕で深く抱きしめた。

 
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