俺様と闘う私『一部・完』
 「端的に言うと……私、いや俺が。理香に救われた恩返しをしたいんです」
 



 そう切り出した志貴は、いつものようなニヤニヤでも偉そうでもない、優しい表情の笑顔を私に見せた。



 ―――うわっ、何、この顔。



 その優しい表情に私の顔は赤くなるし、心臓はドクドクと煩くなる。



 も、心臓に悪すぎるってばっっ!
 



 私一人がわたわたしていると、そこに合いの手が。




 「恩返し? それはまたたいそうなことね?」
 

 「いえ、本当に救われました」

 「続けて、下さる?」



 ニコニコとニヤニヤの狭間の笑みを浮かべる母に押されて、志貴は続けた。



 「俺が、初めて理香に会ったのは、1年くらい前のことです。当時俺は、クライアントとの関係がうまくいかないままに裁判に出た結果、いろいろと詰めが甘かったせいで負けた依頼がありました。  内容については仕事のことなので話せませんが……とにかく、俺はかなり落ち込んでいました」



 そう言って、カップを見つめながらその縁をそっとなぞった志貴。


 やっぱり、落ち着かない感じ……



 でも、続き聞きたい。



 助け舟を出さず私もジッと次の言葉を待った。



 勿論母も。



 「仕事にも身が入らなくて、仕事もそこそこに家に帰ろうとしたある日。家の前に誰かが居ました。俺はなんだか和やかに両親と話すその輪に入りたくなくて、遠くからぼんやり見つめていました。

 ―――ずっと笑顔の彼女を」
 



 まるで懐かしむように当時を思い返した表情の志貴。


 私のことなのに、まるで愛おしそうな顔でそんな風に語られると、恥ずかしさがこみ上げる。
< 177 / 213 >

この作品をシェア

pagetop