俺様と闘う私『一部・完』
 「ようやく『さようなら』と交わす声が聞こえて、帰ろう……そう思って壁に寄り掛かっていた体を起こそうと思った時。
 クライアントとのあれこれでロクに食事もせず、睡眠不足だった俺はそこでふらついて倒れかけました。そのときいつの間にか駆け寄ってきた彼女が、俺を支えてくれたんです」



 ―――えぇー? そんなこと、したっけ?



 すっかりさっぱり記憶にない私。


 というか、道行くおじいちゃんおばあちゃんはあぶなっかしくて倒れそうだったりするのを助けたり、信号一緒に渡ったりが日常茶飯事すぎて、分からない。


 志貴だったら若い男性だから覚えてても良さそうなのに……


 ―――うーん。さっぱり記憶ないし。



 「体を起こした俺を見た彼女は、大丈夫かと顔を覗き込んで尋ねます。そして、俺に渡したのが彼女がいつも販売してる商品です。
 『疲れが取れるから』って。お金を渡そうとしたら『いいから元気になれ』って言って、時間がないからって走って行きました」



 うわー。

 私そんなことやった!?

 やっちゃったの? 



 やっても不思議じゃないし……


 ってか、そんなこともしょっちゅうやっちゃうし。自分の行動に恥ずかしさがこみ上げて、うわーっと脳内で叫びながら反省をする。


 けど、それも今更かと改め直し、そんな自分を諦めた。


 切り替え早いよ、私、と突っ込みながら。



 「彼女から受け取った物を握ったまま家に帰ると、母さんが御堂さんから買ったの? と聞くんです。あの子イイ子よね、可愛いわよねって。そして……お父さん亡くなって大変なのに、いつも笑顔で救われるわって。あの子の笑顔はパワーがもらえるって」



 志貴は、母を見て、そして私を見た。


 その顔はホントに優しくて、私の心臓がまたドクリドクリと打ち始めた。


 恥ずかしさに顔を反らすと、向かいでお母さんがクスクス笑っているのが分かった。
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