俺様と闘う私『一部・完』
 母の一言でそろりと顔を上げた志貴は、明らかに落ち着かない表情でお母さんを見た。


 なぜだか走る緊張感に私までゴクリと唾を飲む。



 ……まるで、結婚の申し込み、みたいだし。



 自分で勝手に妄想してまた顔を赤らめて、心臓をバクバクさせてしまった。
 



 「お願い、するわ。あなたに―――」



 穏やかな表情を浮かべたお母さんは、それだけ言って立ちあがる。


 それがあまりにも簡潔すぎて戸惑う私、そして志貴も。


 立ちあがる母を目で追っていたら、志貴もガタンと椅子が音を立てて立ちあがった。



 「必ず、捕まえます。絶対に」

 「ありがとう。でも、無理はしないで。必要なことは言って下さい。こちらこそお願いします」



 ピッとお互いに頭を下げて、顔を上げて微笑んでいた。


 でも、心の内にはどこかおばあちゃんを悼む気持ちと、犯人を憎む気持ちを灯していた。



 「ところで」



 空気をがらりと変えて、いつものニヤっとした表情でそう切り出すお母さん。



 すっごく、すっごく嫌な予感―――!!



 「善意だけではないわよね? 下心はおあり?」
 



 と、とんっでもない質問をぶっぱなした母。



 「ちょ! な、何言ってんのおかあ」「俺も、男ですが?」



 お母さんと言い切る前に、話をぶった切られて志貴に語尾を掻っ攫われた。




 ……男ですが? って、どういう意味?




 彼氏いない歴爆進中の私はこういう時に、スキルの無さを発動する。



 意味不明だ―――という表情を浮かべて首を傾げると



 「健全で良かったわ。あなたなら、いいわよ」



 そう返事をした母が後ろ手にひらひらと手をはためかせて、祖母の部屋へと去っていった。
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