澄んだ空の下で
「…こっち」
そう小さな声でそう言った恭はあたしの腕を突然掴むと、早歩きでマンションの裏手に回る。
「だ、誰なの?」
気になって、焦る口調で恭を見上げた。
「うーん…取締?」
「取締?」
「そー」
「大丈夫?あんな態度とっちゃっていい訳?」
「別にいい」
「でも偉い人なんでしょ?」
「…さぁね。けど、変にいい態度とって期待されるよりマシ」
「そう…なの?」
「あぁ」
戸惑いながら口を開くあたしに恭の素っ気ない返事が返って来る。
だからこれ以上、何も言えなかった。
何故か聞いちゃいけないような気がした。
「…つか、お前ここ登れる?」
そう言われて視線を向ける先に、思わず目が見開いた。
裏手の奥に回ると綺麗なレンガがあたしの163の身長を遥かに超えている。
「えっ、ここ?」
「そう」
「え、普通に無理だから」
「んじゃ、俺が支えっから」
「いや、ちょっ…そう言う問題じゃないでしょ?普通に前からでいいじゃん」
「あー、無理。俺を目的に張り込んでっしな。面倒くせーだろ」
「え、…でも。他はないの?」
「裏門あるけど、そっちも回りこんでっし。別に俺はいいけど、お前が困るだろ、根掘り葉掘り聞かれてもよ、」
「……」
それも、そうだと思わず黙りこんでしまった。
でも、だからと言ってここはダメでしょ?