澄んだ空の下で
暗闇は静かだった。
あたし達の足音だけが秘かに響く。
お互い何も交わさないままにマンションまでの距離が少しづつ縮まる。
口を一言も開かないままのあたしに、恭は何も聞かなかったし、何も話しかけてはこなかった。
そんな事よりも、思い浮かべるのはサエコの事ばかり。
きっと、サエコはあたしにまた出会いに来るだろう。
あの、サエコの恭を見た輝かしい瞳がそう言ってるもんだと確信する。
…やっぱ、恭は凄い人なんだって改めて知る。
知らなかったあたしがおかしいんだって、そう実感させられる。
そりゃ、そうかも知れない。
あんな豪華なマンションに住んで、一般人とは違う空間の中で育った恭だからこそ、みんなが知る人なんだと思った。
「…はい」
気づけばマンションの入り口まで来てた。
差し出された鞄と袋に手を伸ばす。
「ありがと」
小さく口を開くと、「ん、」とだけ短い返事が返される。
そしてあたしはそれ以上何も口を開くことなく、恭に背を向けた。